去る5月3日、青函トンネル記念館のケーブルカー「もぐら号」撮影ツアーに参加してきました。
このツアーはもぐら号緊急修復プロジェクトのクラウドファンディング返礼品「もぐら号・トンネル内 特別写真撮影(トンネル見学含)」として設定されていたもので、記念館館長さんにお付き添いいただき、トンネル内での車両写真撮影とトンネル自体の見学、および体験坑道の見学×2がセットになった内容です。
生憎暗所に強いカメラを持っているわけではないのですが、撮影した写真を掲載しますのでご興味のある方はご覧ください。
※画像枚数が非常に多い記事です。Wi-Fi環境での閲覧を推奨します。
訪問日 | 2025年5月3日 火曜日 |
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ツアー
本州最北端の岬、竜飛にやってきました。
青函トンネル記念館はここ竜飛に所在しています。
館長さんにこの日のツアーについてのご説明をいただき、荷物を預けていざ乗車口へ。通常ツアーのお客さんが入る前に駅構内に入れていただき、ここでも少し撮影ができました。
乗車前(記念館駅)
「青函トンネル竜飛斜坑線 乗車口」と書かれた看板の先には、金属製の分厚いスライドドアが。
このドアの隙間からは強い風、本当に強い風が常時噴き出しています。
この強風はトンネルの途中にある送風設備によって送られている風で、トンネル内の強制的な換気が行われているため流れてくるものです。
壁貼りの時刻表です。始発が記念館駅9:00発・終電が体験坑道駅17:32発で、定期便だけで一日10往復、臨時便を含めると20往復が走っているそう。
スライドドアの隙間から中の様子を撮影。ちょうど列車が到着するところでした。
駅構内
駅構内は明かり取りの窓のおかげで意外と暗くありませんでした。オレンジ色のもぐら号が佇んでいます。
線路の先を巨大な風門が塞いでいます。この風門があるおかげで、旅客の乗降中は前述の暴風を抑えることができます。
手順としては 列車到着→風門を閉扉→閉扉完了後に乗降開始 という流れで、乗降が終わると開扉して列車を通し、列車が通過するとすぐに再び閉扉します。下部に少し隙間があるので、ケーブルの動作に支障はないようです。
線路に並行して作られている階段に通じる扉です。こちらも風対策でかなり厳重なものになっています。
もぐら号が発着するホームの脇には、作業用車が留置されています。こちらは黄色一色で、もぐら号よりもいくらか小ぶりの車体となっています。
駅舎内上部には、その作業用車ともぐら号とを付け替えるときに使うクレーンが設けられています。壁にレールが這わされており、それを使って移動するスライド式のクレーンです。
冬季は記念館が閉館となり、ケーブルカーを利用した体験坑道の見学も中断となります。その間は作業用車を線路に載せ、作業員や資材などの移動に使っているそうです。
青函トンネル竜飛斜坑線は交走(交換)設備がない線路1本だけの巻き上げ式(?)ケーブルカーになっておりますので、ケーブル跡も誘導滑車も1本分しかありません。
乗車
いよいよ乗車です。最前部に乗せていただけました。
風門をくぐりトンネル内へ。入口のところでトンネル断面が変わります。
内壁の一部が苔むして緑色になっています。
途中から4本の黒いパイプが現れます。線路に並行してトンネルの下部に向かって敷設されています。
この辺りに前述の送風設備があるとご説明をいただいたはずなのですが、どれがそれなのか忘れてしまいました。悔しい……。
体験坑道駅の手前で線路が分岐します。交走設備があるケーブルカーは多いですが(交走式ケーブルカーの特性上当然そうなります)、途中で本線から支線が分岐するタイプのケーブルカーは珍しいです。
体験坑道駅に到着しました。
体験坑道見学①
一般のお客さんと一緒に体験坑道見学が始まります。
体験坑道はもともとは工事中の作業坑として使っていたトンネルを転用したものです。
坑内移動に使われている自転車。体験坑道駅のすぐそばに駐輪されています。
このあたりのレールはトロッコ輸送に使われたものだそうで、今は使われておらず埋められています。(現在はトラックなどの車両を使って坑内を移動しているそう)
2枚目写真の奥(係員さんが立っているあたり)に体験坑道駅の入口があります。
140海底ランド。水槽の中を魚が泳いでいます。
体験坑道内に入っていきます。
入口付近には工事に使われた工具が並べられていました。
作業員移動に使われた24人乗りの水平人車と、牽引に使われた蓄電池機関車です。
人車と蓄電池機関車の連結器部分。保存車同士は直接は繋がっていません。蓄電池機関車の側面には、青函トンネルと英仏海峡トンネルのスペック比較表が貼られていました。
岩盤を固定するロックボルトです。
途中で坑道がやや狭くなります。
先進ボーリングに使われた小型特殊削孔機と、それを駆動させる油圧ユニット(パワーユニット)です。
岩盤にグラウト(注入材)を注入するグラウトポンプです。壁面に器具をあてがった状態で展示されています。
注入用セメントなどの注入材そのものも展示されていました。
コンクリート吹付を行う吹付機です。作業員マネキンがホース先端を持って構えています。
トンネル内の排水を汲み上げる排水ポンプです。
異常出水にかかわる展示もあります。昭和51年(1976年)5月の出水事故が最も酷く、なんと毎分85tもの海水が流入していました。作業坑の大部分が水没し、本坑(実際に列車が通る予定のトンネル)にも水が流入しました。
工事中の異常を知らせる切羽間警報装置です。青い筐体にスピーカーやマイク?が付いているほか、中には受話器が格納されています。
紆余曲折様々な困難を経て、青函トンネル本坑は昭和60年(1985年)3月10日に貫通しました。
労働者数延べ1370万人を動員し、本州側18名・北海道側16名の殉職者を出し、10tダンプ98万台分(6,330,000㎥)もの土砂を掘削し、総額6890億円もの工費がかけられた世紀の大工事は、こうしてようやく実を結び、その後昭和63年(1988年)3月13日に津軽海峡線の開業を迎えます。
これにて体験坑道の展示は終わりです。
体験坑道駅へ (撮影①)
この道を直進すると体験坑道駅に戻れます。
戻ってきました。壁面に「竜飛0.0km⇔吉岡23.1km」のプレートが埋め込まれています。
踏切を渡り(ケーブルカーの踏切というのも珍しいものです)、一般のお客さんを乗せた列車が記念館駅に向かう様子を見届けます。車両の撮影に関しては別途記事を立てていますので、そちらをご覧ください。
体験坑道より先、さらに深いところまで線路は続いています。この先は灯りがなく、内部は闇に包まれています。
体験坑道駅のホーム設備です。記念館駅・体験坑道駅での降り鉄についてはまたまた別途記事を立てる予定ですのでそちらをご覧ください。
ケーブルカー線路と並んで地上まで伸びている階段は実に1329段、あのJR土合駅の2.7倍です。
徒歩で約20分と書かれていますが、館長さんのお話では実際は30分はかかったそう。
青函トンネルでは2015年4月3日に特急スーパー白鳥号の車両から発煙するトラブルが発生しており、その際の避難用に実際にこのケーブルカーが使われているものの、約120人いた乗客をすべてをケーブルカーだけで運ぶには時間がかかることから、歩ける人は階段を歩いて上る形となったそうです。
体験坑道見学②
地上へ行ったケーブルカーが戻ってくるまでの間、体験坑道をもう一度見学します。今度は一般のお客さんがいないため、僕一人の貸し切りです。至れり尽くせり至福の時間です!
先ほども通った、移動用自転車が留置されているエリア。
体験坑道駅に続く細いトンネル。
トンネル横のスペースに多数の台車が置かれています。
天井を這っているパイプは黒いものと白いものの2種類があります。黒いパイプはトンネル内に湧き出てくる海水を地上へ汲み上げるためのもので、先ほどケーブルカーの線路と並行して敷設されていましたね。
一方の白いパイプは地上から真水を運んでくるためのもので、トンネル内に設置されている火災時用のスプリンクラーは海水では動かせないため、この真水を使うそうです。
先ほども見た、水槽がある辺りにやってきました。
水槽の後ろには、後述する体験坑道駅付近のポイントから分岐してくるトンネルとの合流地点があります。その分岐トンネルは、ケーブルカーが走る斜坑と体験坑道に続くトンネルを結ぶ短絡線の役割で、必要なときに分岐器を切り替えて、車両をここのトンネルに流すことができます。
短絡線を渡ってきた車両から資材の積み下ろしなどをするために使うクレーンが設置されています。先ほど通ったときは存在に気づきませんでした。
体験坑道に到着。右手の壁が光っている箇所が体験坑道入口です。
先ほどは人が多く撮影できなかった、体験坑道入口付近の通路です。青い照明で印象的な絵面が展開されています。
岩盤の発破に使うダイナマイトです。日本化薬株式会社さんから提供されているものらしく、つまりはレプリカではなく本物……?
保存車が展示されているエリア。保存車の写真についても車両撮影分の記事の方に掲載していますので、そちらをご覧ください。
支保工の展示です。支保工のほか仮説レールや鉄筋などを合わせ、青函トンネル全体で168,000tもの鋼材が使われており、これは東京スカイツリーを5基建設できる量だそうです。
先ほどまでに見てきた展示類をもう一巡します。
体験坑道二巡目を終えました。
先ほどは人が多く写真が撮れなかったのですが、体験坑道を出たところにはベンチなどが置かれたちょっとしたスペースがあります。
JR「竜飛海底駅」があったころの写真が展示されています。
竜飛海底駅はこのフェンスの先にありました。同駅は北海道新幹線工事の進捗に伴い平成26年(2014年)3月15日に廃止されており、緊急時の避難の拠点などに使う「竜飛定点」に名前を変えています。
駅現役時代は竜飛海底駅見学ツアーに申し込みをした乗客のみがこの駅で下車することができ、このフェンスの向こう側からこちらまでやってきて、体験坑道を見学した後ケーブルカーで地上に出るなどしていたそうです。
体験坑道駅へ (撮影②)
記念館駅からお客さんを乗せて地下に戻ってくる列車を撮影するべく、体験坑道駅に戻ります。
この写真でいう右手の壁の向こうに並行して体験坑道が通っています。
途中、横穴に配電盤?が設けられている箇所がありました。その向こうにある銀色の扉はいったいどこへ続いているのでしょう……?
体験坑道駅入口です。カーブしている分岐の右側(断面が大きい方のトンネル)が体験坑道に向かうトンネルです。
到着する列車をトンネル内から撮影。素晴らしい体験でした。
くどいようですが、車両の撮影分は別記事に分けていますのでそちらをご覧ください。
車両の細部①
到着した列車から一般のお客さんが降り、体験坑道の見学に向かっていきます。
そのお客さんたちが駅に戻ってくるまでの間が、セイカン1形こと「もぐら号」撮り放題の時間になります。なんという素晴らしい時間でしょう!
頂上側の車端部です。ドアは手動でして、静かに開閉するよう指示する張り紙が貼られています。
標記です。空車重量が9.75t、最大乗車人員は文字がつぶれていますが40人でしょうか……?
車両前面の地上側には、地上との通信に使うためのアンテナが設置されています。
ケーブルと車両の接続部です。
麓側(体験坑道駅側)に付いているもぐら号のヘッドマークです。
ドアは外吊り式です。開けるとこんな感じ。
ドアハンドルが1段奥まった場所に埋め込まれています。
ドア上にある側灯です。
北側(体験坑道駅ホームがある方)側面です。宝くじ号のロゴやもぐらのイラスト、「セイカン1形」を表す標記などがあります。
分岐線
車両の細部を見たあと、さらに階段を上り、前述の支線分岐部を見せていただきました。
支線は体験坑道駅のすぐ手前の箇所で分岐し、急カーブを描きます。
支線の線路には誘導滑車がありません。
支線は急勾配かつ急カーブでS字線形を描き、先ほど僕がいたトンネルに合流します。分岐部の壁付近に消火器が設置されています。
分岐器です。一般的な鉄道の分岐器によくある形のトングレールは存在せず、主レールを直接動かして切り替える方式となっています。
転轍棒です。ケーブルカーの分岐線路には通常、交走式のものも含め転轍棒がありません(可動式の分岐器が存在しません)ので、ケーブルカーの転轍棒というものがまた貴重な存在です。
交走式ケーブルカーは左右で車輪の形が違い、片側が両フランジ車輪、もう片側が幅広の平車輪となっていますが、ここ青函トンネル竜飛斜坑線でも車両の仕様はそうなっており、北側のレール(この写真でいう奥側、分岐側)に接する車輪が両フランジとなっています。
そのおかげで、分岐器を切り替えてレールが分岐線側につながれば、両フランジ車輪に誘導されて車両が支線に向かうという仕組みになっています。
▲分かりにくいですが、分岐とは反対側にある平車輪です。幅が広く、フランジがありません。
分岐部付近から記念館駅側を見た様子。遠くにかすかに駅の明かりが見えます。
車内
セイカン1形(もぐら号)の車内写真まとめです。
1+2列配置で青いモケットのボックスシートが並ぶ車内。ケーブルカー車両ゆえ後方に行くほど床が高くなっており、車内に階段があります。
座席にはシートベルトが備え付けられていますが、所々無い座席もありました。
背もたれは裏表共用で、そのため体験坑道駅側に座るか記念館駅側に座るかによって、使用できる背もたれの高さが異なります。
ドアです。手動の外吊り式であるためか、ドアにもたれかからないよう促す注意書きが貼られています。
側窓は下辺が水平で、上辺が車体の傾きに合わせて斜めになっている台形のものになっています。その上部にはメッシュ付きの細窓もあります。
2人掛けの方の座席には、折り畳み式の補助席が設けられています。満員になる際はこの補助席までフルに使い、びっしりと人が座ります。
車両の前部(体験坑道側)です。この付近はロングシートになっていますが、うち手前の1人分だけ一段高い位置にあります。また、消火器が設置されています。
車両最前部(体験坑道側)では、床のうち1人分のスペースだけが一段低くなっています。
反対側の前部(記念館側)です。こちら側のドアは南側(記念館駅ホーム側)のもののみが客室に面しており、ドア前には1人掛けクロスシート(補助席あり)が設けられています。
※記念館駅では南側2か所のドア両方を使用しますが、体験坑道駅では北側2か所のうち麓側のドア1か所のみを使用するため、もう1か所の北側側面山頂側ドアは客室に面しておらず、乗務員室にのみ通じています。
その先には4人座れるロングシート。うち1人分のみが一段低い位置にあります。こちら側にも消火器が備え付けられています。
ロングシートにもシートベルトがあります。また、最前部の1人分のスペースだけ床が一段高くなっていました。
車両は日立製のようで、HITACHIの銘板がありました。クラウドファンディング達成記念のステッカーも貼られています。
記念館駅側の客用ドアは故障しているようで、「扉開閉注意!扉がはずれる!」と書かれた張り紙がありました。(個人名などが書かれていたのでその箇所にボカシを入れています)
現時点で運行開始からまだ40年も経っておらず、国内のケーブルカー車両の中では比較的若い部類にあたりますが、それでも老朽化が進んでいることは否めないようです。運用環境が過酷であることも災いしているのでしょうか……。
青函トンネル竜飛斜坑線は鉄道事業法に基づいて運営される「鉄道路線」であり、安全報告書が毎年公表されています。それによりますと車両更新の検討を進めており、業者さんに新型車両製作の見積もりも出してもらっているようです。現在のセイカン1形に乗車できる機会はそう長くないかもしれません。
ケーブルカー車両更新検討
製作業者と協議をして、設計図(見積書)作成を依頼して、12月に受理した。
令和6年度版 安全報告書
麓側の2人掛けシートは下部が箱型になっていました。何かが収納されているのでしょうか?
また、この部分だけ階段のうち通路部のみが数cm出っ張っています。床下機器の配置の都合でしょうか。
地上へ
車内の撮影を一通り終えたところで、体験坑道を見学していた一般のお客さんが戻ってきました。そのお客さんたちと一緒に地上へ戻ります。
復路も座席は最前です。
前述のアンテナの裏側がよく見えます。
支線との合流地点を通過。
前方の誘導滑車にご注目。真横を向いた小さな誘導滑車が併設されています。このような配置は初めて見ました。
おそらく、列車が支線に入る際にケーブルが曲がり壁に接触することがないよう抑える役目を担うものではないかと思います。
あまりにもブレブレですが、確かこれが前述の送風装置だと仰っていたような記憶があります。
記念館駅が見えてきました。
記念館駅に到着。
駅構内に機械室はなく、道路を挟んだ向こう側にケーブル巻き上げ機のある棟があります。そこまでケーブルを渡すための穴が壁に空いているのが分かりますでしょうか。
▲参考:巻き上げ機のある棟。壁面の穴からケーブルが伸びています
車両の細部②・記念館駅にて(撮影③)
記念館駅に到着したケーブルカーから一般のお客さんが降りていきます。それから今乗車列に並んでいるお客さんを乗せて体験坑道駅へ向け折り返し発車するまでの間、もう一度車両の細部を撮影しました。
南側側面のモグラのイラストです。
宝くじ号のロゴと「セイカン1」の形式標記です。
平行四辺形の細窓です。メッシュが入れられています。
「日本宝くじ協会寄贈」のロゴ。
発車していく列車を見送ってツアーは終了しました。
ご案内いただいた館長様、ありがとうございました!とても濃厚で新鮮な素晴らしい体験ができました。「もぐら号」の今後の末長い運行継続を祈りながら筆を置かせていただきます。
読者の皆様、長ったらしい記事を最後まで読んでいただきありがとうございました。こんなに長い記事は久しぶりに書きました……
編集履歴
2025-06-18 17:05 | すべての画像にalt属性を追加。また、「体験坑道駅へ (撮影①)」の章において、ケーブルカーが出発していく画像と説明しながら到着する際の画像を誤って掲載していた箇所があったため写真を差し替え。 |