東海道・山陽三十五次

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2021-09-09: 横須賀線「山の根踏切」廃止後の様子 ――同線(本線上)唯一の第四種踏切

8月20日午前1時をもって、横須賀線の逗子駅東側にある「山の根踏切」が廃止されました。
横須賀線内でも本線上にある第四種踏切はここだけ*1でした。

現役で使われているうちの再訪はできませんでしたが、9月9日に廃止後の状況を確認してきました。写真・図とともにまとめておきたいと思います。

訪問日 2021年9月9日 金曜日

山の根踏切とは

現役時代の山の根踏切(2020年2月2日)
▲現役時代の山の根踏切(2020年2月2日撮影)

逗子駅・山の根踏切周辺の広域図
「山の根踏切」は、横須賀線逗子駅から東に350mほど進んだところにあった踏切です。

山の根踏切周辺の拡大地図
逗子駅留置線の計6本の線路を跨ぐ*2ため、長さ35.5mと、一般的な踏切より長めになっています。

逗子駅電留線の様子
▲使用しない車両を一時的に止める留置線

その長さゆえに通行に時間がかかる上、自動警報機・自動遮断機が設けられていない第四種踏切であるため、かねてより "危険な踏切" として問題視されてきました。

一方で、地元住民からは存続を望む声も上がっています。(後述)

廃止後の様子

山の根踏切周辺の拡大図(目次用)

①北側

山の根踏切跡を通過する列車
フェンスで塞がれた踏切跡
踏切跡は真新しいフェンスで塞がれており、過去に設置されていた黄色い柵やポールもなくなっています。

ポールの撤去跡拡大
ポールの撤去跡。「とまれ」と描かれた注意喚起ステッカーのみ残されています。

右側からの踏切全景
左側からの踏切全景
左右両側からの踏切全景。

渡り板の様子
フェンスより高い位置にカメラを持ち上げ、渡り板の様子を撮影。
(車の通行が完全に途切れているタイミングで撮影しています)

渡り板にチョークで書き込みがされている箇所
チョークで点線が引かれている箇所があり、「東てっ去←|→貨物てっ去」と書かれていました。

専用線と踏切の位置関係説明図
一番北側(上記写真手前側)の1線のみ、JR貨物が所有する線路(総合車両製作所専用線)となっており、この部分だけはJR東日本が勝手に撤去することはできないため、印をつけて区別しているものと思われます。

専用線の渡り板の様子
手前の1線以外は全てレール間の渡り板の撤去が終わっています。

踏切前の横断歩道
山の根踏切を渡るためだけに設けられていた横断歩道。完全に意味を失っており、近日中に逗子警察署が対処するそうです。

②南側

踏切跡を通過する列車
踏切跡の南側入り口
踏切跡の南側入り口
南側は銀色のフェンスで塞がれています。

沿道から踏切側を見た様子
分かりにくいですが、やや東側の沿道から踏切を向いて撮影。
一番左の渡り板が若干傾いているのが分かります*3

撤去中の渡り板の様子
撤去中の渡り板の様子
渡り板の様子。南側(上記2枚 写真手前側)では線路分岐部の根元と渡り板が重なっており、以前はレール間の渡り板が複雑な形になっていました(撤去済み)。

チョークで1900と書かれた渡り板
一番手前の渡り板にはチョークで「1900」と書かれていました。踏切の幅のことではないかと思います*4

反対運動・抗議

踏切跡と抗議のノボリ
踏切跡の北側(記事中①の項目)付近には、JRに抗議する内容のノボリが立てられています。

前述の通り、この踏切は "危険な踏切" として長らく廃止が検討されてきました。
しかし同時に、下記のような理由から、利便性の高い踏切として存続を望む意見が何度も出されています。

  • 迂回路が不便 - 迂回先として案内されている「金沢新道踏切」は約300m離れている
  • 緊急時の避難路になる - 災害発生時、住民が北側に円滑に移動するためのルートとして機能する

存続が望まれる理由

後述の事故調査報告書(P.12)には、踏切の利用目的について「通勤時間帯は山の根地区から京浜急行の新逗子駅方面、昼間帯は山の根地区から市役所方面である」とありました。

山の根踏切経由・金沢新道踏切経由のルート比較図
そこで地図上でルートを辿ってみると、山の根踏切を使う場合は(踏切の北側から)新逗子駅まで約390mだったのに対し、金沢新道踏切経由の場合は600mにまで距離が増加しました。

また災害時についてですが、逗子市の各種ハザードマップでは、当該エリア(京急逗子線・JR横須賀線の線路に挟まれた地区)周辺の危険性(最大)は次のように想定されています。

津波 概ね1.20~3.00m未満の浸水
氾濫・浸水 概ね0.5~3.0m未満の浸水

また、線路を挟んで北側のエリアが土砂災害警戒区域に指定されています。

跨線橋・地下道化

代替として跨線橋・地下道を設置できないかという協議も行われたようですが、より広いスペースが必要になるほか、費用の問題もあり実現しなかったようです。

また、跨線橋・地下道は基本的に階段を使う設備であり、足の弱い高齢者などには利用しにくく、平面移動できる踏切の代わりを十分に果たすことは難しくなります。

金沢新道踏切と山の根歩道橋
▲金沢新道踏切に併設されている「山の根歩道橋」(2019年6月8日撮影)

迂回路として案内されれている金沢新道踏切では、遮断時間が長くなるため歩行者用の跨線橋が併設されていますが、階段を使えない歩行者は踏切が開くのを待つ必要があります。

第一種踏切化

第一種・第三種・第四種踏切の比較説明図
そこで、地元からは自動警報機・遮断機付きの「第一種踏切」への格上げが提案されていました。

留置線を強調した山の根踏切周辺地図
しかし、逗子駅で行われる増結・解結作業で頻繁に留置線を使うため、遮断時間の長い「開かずの踏切」になる可能性が高く、
加えて機器設置や横断者の待機に使えるスペースが足りないため、一種化も困難とされました。

その後、代替手段はなく、迂回路の案内のみで山の根踏切は廃止されました。

地元の反発

「地域住民を無視するな」と書かれたノボリ

現在、原則踏切の新設は認められておらず、一度廃止されてしまった以上、今後の復活は期待できません。

不便な状態が恒久的に続く見込みですから、そこからくる反発は決して小さくないものと思います。
廃止後も意見を訴えるノボリが立ち続けているのには、そういった理由があるのではないでしょうか。


それでは続きまして、このように存続要望が寄せられていた踏切に対して、JRが廃止を決めるきっかけとなった出来事について書いていきます。

死亡事故の発生

2019年3月21日、この山の根踏切において、横断中の歩行者(92歳・男性)が列車と接触し死亡する事故が発生しました。
第四種踏切で発生した事故のため、運輸安全委員会による調査・検証が行われています。

男性は市外在住で、この日はお墓参り(以前はその辺りに在住)に行かれていた際の事故だったそうです。
この他、これまでにも1987年・2005年に人身事故が起きており、事故にまでは至らなかった非常停止・安全確認も1年間に何度も発生しています。

山の根踏切周辺において発生する死角の範囲(例)
山の根踏切は距離が長い点以外にも、留置線の列車の停止位置によっては、歩行者側・列車側双方にとって死角が発生するという問題があります。

この死角の存在もまた、「危険な踏切」とされる根拠の一つです。

件の事故についても、状況によって本線を見通せない範囲が多くなること、そのため踏切に入る際の安全確認だけでは安全に渡り終えることが困難だった可能性が指摘されています。

死亡事故の発生が決定打となり、山の根踏切を廃止する方針が示されます。

思ったこと

そこで感じたことなのですが、(横須賀線)本線に限って対策を施し、踏切を残すということはできなかったのでしょうか。

本線を強調した山の根踏切周辺図
山の根踏切が跨ぐ線路は専用線・本線・留置線の3グループに分かれており、その種類によって列車の通過頻度・速度が異なります。

線路 速度 頻度 概要
総合車両製作所 専用線 低速 ごく低頻度 完成した新型車両を運び出す際、また改造予定の車両を搬入する際のみ使われます。
運行の無い日が多く、あっても1日1往復程度。
横須賀線 本線 中速 高め 原則全列車停車となる逗子駅が近いため、高速で通過することはありません。
前述の踏切事故の際、当該列車は約53km/hで通過していました。
留置線 低速 中頻度 主に、横須賀線列車への増結・解結を行う場合に付属編成(4両)が通ります。
全ての列車が増解結を行う訳ではなく、特に日中は低頻度になります。

※速度・頻度は目安

低速の列車は、急な歩行者に気付いた際に安全に停止できる可能性がより高まりますので、この中で最も危険なのは(横須賀線)本線の2本のみといえるのではないかと思います。
また、その2本の線路に絞って重点的に対策を行えば、それだけでも安全性は格段に上がるのではないでしょうか。

「もう一度かくにん!みぎ!ひだり!」と書かれたステッカーのある渡り板
▲山の根踏切の渡り板でも、本線を横断する前にもう一度左右を確認するようステッカーが貼られていました(前述の事故後に貼られたもの)

遮断機付きの第一種踏切化はスペースの関係で困難とされましたが、より簡素な設備で済む第三種踏切*5を本線のみを対象にして設置するのであれば、スペースが確保できる可能性はないでしょうか。
(本線とそれ以外の線路との間には若干広めのスペースがあり、実際に小さな機器類が配置されています)


仮に第四種踏切のままでも、人感センサーで歩行者を検知し、本線を渡る前に改めて左右を確認するよう、音声・光を使って伝えるような簡易的な装置は追加できないでしょうか。
音と光で注意を惹くだけでも、効果は大きく上がるのではないかと思います。

あえて踏切を残す選択肢は

現状、踏切は危険なもの・道路渋滞を誘発するものとして、原則新設は認められず、既存のものも立体交差化などで廃止していこうという方針が主流になっています。

立体交差化工事中の京成曳舟駅(2014年12月当時)
▲立体交差化工事を行っていた京成曳舟駅(2014年12月当時)

しかし、立体交差化は大規模な路線の第一種踏切解消に最適化された面が強く、今回のような小~中規模路線の第四種踏切は、立体交差化なし、場合によっては跨線橋設置など代替手段もなしに廃止されるケースが多くなっています。

鉄道は地域を分断する存在であり、また地域との共存が望まれる存在です。第四種踏切が危険なのは事実ですが、一方で地元住民の利便性もある程度守られるよう、よい落としどころは探れないものでしょうか。

編集履歴

2021-10-13 14:40 参考 新聞記事のタイトル記法を統一。2019/5/12・2020/3/22の新聞記事を追加。
また、配線略図.netさんの記事へのリンクを追加。項目を新聞記事・その他の2種類に分類。

*1:回送列車のみが通る区間にはもう一か所存在

*2:渡り板が線路の分岐部にかかっているため、分岐中の2本の線路を1本として扱い、計4本とカウントしている資料もあります

*3:道路とレール上面の高さを合わせるため。踏切ではよくある構造です

*4:1900mm=1.9m。後述の事故調査報告書では2.0mとされています

*5:自動警報機あり・遮断機無し